閉じた世界で私は

よく晴れた朝だった。
ふかふかの布団の足元を、暖かい太陽の光が照らしていた。

「おはよう、世界」、、、。

ーー今日も世界は沈んでる。ーー

序『何かを一つ落とした』

点滅する横断歩道の信号機。

 

ぞろぞろと歩く人の黒い頭の上で、遠くに見える信号機が呼んでいた。

まるで早く渡れと急かしているみたいだ。

横断歩道を渡り切ると軽く息が上がっていた。

 

昼でも夜でも相変わらず、騒がしい都会の音は自分が歩いているかもわからなくなるほどに、足音も自分の存在でさえもかき消していった。

「みんな、何を求めて来たのだろう。」

道端に落ちていた枯葉を踏みつけて歩いた。

 

お昼の休憩時間になる少し前、窓越しに暗くなった空に気づく。

道路にはもう水溜りができていて、歩く人たちは傘をさしている。

帰る頃には止む予報だったからと、コピーした用紙を確認をして席に戻った。

 

すっかり夜がふけり、肌寒くなった空を見上げと、光のない空がそこにある。

なんとなく、空に息をふっと吐いてみた。

街灯に照らされ輝いて見えた白い息は、すぐに自分から離れて消えていった。

 

破『当たり前ってなんなのさ』

この煌びやかな街で、パフォーマンスをする人たちがいた。

歌を歌う人や踊りをする人、ピアノを弾く人もいる。

彼らにコネは無く、自力でお客さんを集めている。

 

終わると、お客さんはケースに投げ銭をする。

自費できたことを伝えて投げ銭をお願いする人もいた。

「笑って、楽しんだのならかっこいいことしましょうよ」と伝える人もいた。

 

歩道をせわしなく歩く人の流れは、お客さんをも呑み込んで消えていくようにも見えた。

 

電車は時間ぴったりに動いてくれる。

働いていれば、ひと月後には給料が入る。

きっと、この街は飽きることをさせてはくれないだろう。

 

”布団から見る天井は今日も変わらない”

 

離『探し物、見つけたよ』

「おはよう、」・・・。

 

手を伸ばしてアラームを止めた携帯にメールが入っていた。

随分前に自分が担当していたお客さんからの頂き物をもらったと、後輩から写真が送られてきた。

そこには自分宛てのメッセージカードも含まれている。

 

思わず頬がゆるんで”にやにや”してしまう。

布団もいつも以上に綺麗にたたんでしまっていた。

今日は何か、、良いことあるといいな。

 

電車は予定通りの時刻に来てくれる。

今日もみんな働いている。

電車が来てくれるなら、たまにはゆっくり行きたいな。

 

顔を上げると緑があり、よく見ると小鳥も見つけた。

道路の縁石にはタンポポも咲いている。

遠くから春の匂いが迎えに来てくれた。

 

おはよう、世界。

ーーこれからもよろしくね。ーー

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